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執筆者の写真Satoshi Enomoto

【名曲紹介】オペラ作曲家ヴェルディのピアノ曲

更新日:2023年6月8日


 ジュゼッペ・ヴェルディ(Giuseppe Verdi, 1813~1901)と言えば、イタリアを代表するオペラ作曲家の一人です。オペラ自体がイタリア音楽の主産業、みたいな節もありますが、その中でも上位に食い込む人気ぶりでしょう。《ナブッコ》《仮面舞踏会》《ドン・カルロ》《アイーダ》などのオペラはもちろん、《レクイエム》なども、ヴェルディのことはあまり知らないままにTVCMなどで聴いたことがあるかもしれません。歌を書くことにおいて本領を発揮した作曲家と考えて差し支えはないでしょう。人間的には非常に真面目で勤勉な性格をしており、人の集まりをあまり好まなかったようです。5年間だけ議員の顔を持っていたこともありました。



 ヴェルディの作品一覧は、オペラ、歌曲、宗教曲によって殆ど占められています。しかし、器楽作品を全く書かなかったわけではありません。例えば《弦楽四重奏曲》はオペラほど有名ではないにせよ、知られている部類に入る曲でしょう。オーケストラのための《シンフォニア》、フランチェスコ・モルラッキのオペラ『テバルドとイゾリーナ』の主題による《ピアノとオーケストラのための変奏曲》といった作品もあります。ただ、器楽作品はやはりそもそも数が少ないことに加えて、楽譜が散逸したり、本人が破棄したり、偽作の疑いがあったりして、どうしてもヴェルディ作品の中では肩身の狭い位置にあります。


 そして今回話題にするのは、2曲の現存が確認されているピアノ作品についてです。


 

 ヴェルディは「ピアノ曲は書いていない」とまで言ったという話もあったそうで、実際には書いていたにせよ、やはり積極的ではなかったようです。それでもなお書かれた2曲は、オペラに比べれば些細なものかもしれませんが、しっかりとヴェルディの美学を反映しているように感じられます。



ワルツ


 F-dur、3/4拍子


 ニーノ・ロータによって編曲され、ヴィスコンティ監督の映画『山猫』の舞踏会シーンで用いられました。若い頃の作品であると考えられています。


 ヴェルディらしいメロディだと思いますが、個人的に弾いてみた感触ではピアノ曲としては弾きづらい部類に入るような気がします。ピアノの技巧として難しいのではなく、最初からオーケストレーションするつもりで一先ずピアノ譜として書いたのではないかと感じるタイプの難しさです。むしろ普段からヴェルディのオペラの伴奏をやっているピアニストならしっくり来るのかもしれません。


 ヴェルディのオペラのとあるシーンの音楽だと言われたら信じてしまいそうになるような気品のある音楽となっています。だからこそ映画の中で用いられたのでしょうけれども。なお、ロータは単にオーケストラに編成を移し変えたというだけでなく、メロディに加筆したり、さらにはオブリガートを加えたりといった自由な編曲を施していまして、原曲はもっとシンプルです。




ロマンス


 F-dur、3/8拍子


 35小節という短さでありながら、こちらもまたヴェルディらしいおおらかなメロディが特徴的な作品です。きらびやかな装飾の施されたパッセージもあり、《ワルツ》と比べても断然こちらの方がピアノらしい書法で書かれていると思います。曲の存在自体はヴェルディの生前から知られていたようですが、作曲者不明として扱われていました。「いや名乗り出ろよ!」という話なのですが、結局ヴェルディの死後に個人所有の自筆譜が出てきてヴェルディの作品と判明しました。


 しかもその自筆譜では、曲の終わりの方に出てくる右手の8va記号の適用範囲がそれまで知られていたものよりも広かったのでした。8va記号の適用範囲の広い版の方が、和音構成的にも音響的にもよりきらびやかで相応しいと思います。ヴェルディのオペラアリアが好きだという人にはほぼ確実にヒットするでしょうし、難易度もさほど難しくありませんから、声楽の人たちも副科ピアノだと思って弾いてみればきっと楽しめることでしょう。


 

 恐らくヴェルディ自身が重視しておらず、すっかり日の目を見るのが遅くなってしまった2つのピアノ作品。長いオペラを観て深い人間ドラマを味わうのもいいですが、もっとリラックスして優美な小品で体感するヴェルディというのも、これからの一興でしょう。

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