感染拡大第7波の中で、公演の出演者が感染・発症してしまったことによって、公演自体が延期や中止になることがかなり多く見られるようになってきました。これまでには感染拡大を受けて先んじて延期を決めたりすることもあったのですが、今回は企画者や出演者がそのような相談をする猶予さえ与えられないまま、公演自体が突然倒れることが多く、これは見ている側としてもなかなかにキツいものがあります。
ガラ・コンサートのように、出演者同士が当日しか会わないような形態もあります。この場合は一人や二人が感染して出演辞退に陥ったとしても、残りの出演者だけで公演を行うことはできるでしょう。しかし、団体で行う催しともなると、代えが利かないパートが出てきます。そこをコロナに落とされてしまったら、やむなく公演の延期や中止を決めざるを得なくなるわけです。これは公演当日だけでなく、普段の稽古の中で感染者が出てしまっても同じようなことになります。特に公演直前の稽古でそれが起きるというのは非常に不運なことであります。
そしてこれは音楽だけの話ではありません。演劇などでも、一人が一役を担っているようなものについてはそうそう代えも利かないはずです。
泣く泣く公演を延期したり中止したりするのにはそのような事情もあるわけですが、時に聴衆や観客からはこのような意見が上がります。
「代役を立ててでも公演を行わないのか」と。
僕自身も、この第7波に入ってから1度だけ、伴奏の代役を引き受けました。歌曲4曲の楽譜が手元に届いたのは本番の2日前です。それらの曲は、弾いたことがなかったなりにも聴いて知っていた曲ではありましたから、2日間でどうにか体裁を整えて本番に乗せることができました。それでも本音を言えばどんなに突貫でも5日間くらいの準備時間は欲しかったプログラムです。
想像してほしいのです、普段の仕事も並行しながらに超突貫工事で譜読みと練習をしなければいけない様子を。これは僕がたまたま曲を知っていて、技術的にもそこまで難しいわけでもなく、分量もそこまで多くなかったからこそ代役がどうにか務まっただけの話です。
これが例えば「2日後にラフマニノフのピアノ協奏曲第3番のソリスト代役やってください」のような依頼だったとしたら即時断ります。曲は知っていてもそれは2日で弾ける曲ではないし、既に何度も弾いて慣れている人に頼んでくれという話になるのです。
それでも、曲目を変更しないための代役ならば、まだ「既に弾いたことのある人に頼む」という選択肢があるだけマシというものでしょう。
公演のメインとなるものが、曲目や演目よりも出演者であるという場合があります。つまりお客さんは「何をやる」ではなく、「誰がやる」を目当てに会場に来るということが考えられるのです。その場合、出演者即ち「誰が」の部分の代役は他の誰にも務まらないことになるのです。
誰でも代役が立っていればよいというものではないのです。厳密に見れば微塵も代えが利かない部分が存在するということなのです。
コロナに感染した芸能人がお詫びの文言を公表したりします。それを見る側としては「そんなふうに謝らないで!」と感じることの方が多いだろうとは思います。ただ、それは感染した本人が「自分の代えが利かない」ことを自覚しているからこそ出てくるメッセージなのであろうと捉えています。
代役とは、一般にイメージされるものよりも難しいものであろうと思われます。
どうにか「曲目だけは守れればよい」という代役を急遽頼めるようなプラットフォームがあったら便利だろうな、ということを最近になって…というか第7波を受けてから度々想像します。今どこでどのような曲の演奏を依頼されているかを予め登録しておいて、いざ濃厚接触者や感染者になってしまった際にはピンチヒッターとして弾ける人が名乗りを上げてくれるシステム。
演奏者一人が複数のところから演奏依頼を受けているのは普通の話です。万が一にでも療養が必要になった際には、他の演奏家たちで手分けして維持できる体制などを普段から構築できていれば、コロナによる損害や影響もできるだけ低減できるのではないかと考えます。オペラ公演なんかだと予め代役が用意されていることもあるようなのですが、そのような体制が整えられているところばかりでもないのですよね…
妄想するばかりで僕にはこのようなものを作るスキルはありませんが…誰か詳しそうな人が上手いこと作ってくれないかな…(笑)
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