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執筆者の写真Satoshi Enomoto

【音楽理論・雑記】タブラチュア譜の明と暗


 タブラチュア譜というものをご存知でしょうか?


 奏法譜とも呼ばれまして、音楽における音や音型をグラフィカルに表記する五線譜とは異なり、例えば弦のどこを押さえてどの弦を弾く、管のどの穴を塞ぐ…などという奏法を直接図示するものです。


 下に持ってきたのはギターのタブラチュア譜(TAB譜)です。ギターの弦は6本ですので、線は6本書かれています。数字はその弦のどのフレットを押さえるか(または開放弦=押さえない か)を示してあります。



 このタブラチュア譜には楽器によって様々な形のものがあります。箏で弾く弦を文字で示し、そこに押し手などの奏法を書き込んだものもタブ譜の一種です。


 撥弦楽器が最もイメージしやすいと思うのですが、同じタブ譜を用いても、調弦を変えてしまえば音楽は変わってしまいます。つまりは奏法を指示しているだけなので、指定されているのとは異なる弦をその奏法で弾けば異なる音が出るのは当然であります。


 

 このようなタブ譜は当初は主に楽器を演奏するにあたって普及したものでした。ただ、五線譜の方が読めれば間に合うという一面もありまして、五線譜に既に馴染んでいる人は後からタブ譜を読めるようになろうという意志は起きないかもしれません。


 しかし、実はタブ譜(奏法譜)であってこそ表記できる音楽があることも事実です。その例として、真っ先に特殊奏法を挙げることができるでしょう。


 皆さんが義務教育で扱ったであろうリコーダー。何の音を出すのはどのような運指、ということを色々と覚えたことでしょう。しかし実はそれら以外の、五線譜に書きにくいような特殊な音を出せる運指もあるのです。それらは、塞ぐ穴と開く穴を図示するタブ譜によって表記することが可能です。


 他の楽器においても、そのようなことが可能であることはもう推測できるでしょう。


 

 ところで、タブラチュア譜はメリットばかりではありません。実は意外に深刻なデメリットがあるのです。それが、音楽を形成する音同士の関連性や組織性を示しにくいということです。


 先に載せたギターのタブ譜は五線譜もセットになっています。このように併記が為されていれば、どのような音楽が計画されているかを楽典的に知っておくこともできるでしょう。


 しかし、もしもこの五線譜が併記されず、タブ譜だけを載せられたとしたら、押さえる弦とフレットは分かっても、何の音が鳴るかまで読み取ることはできないのです。そして現に「タブ譜だけを見て弾いているので何の音が鳴っているかは知らない」という人も実在します。


 現代ではテクノロジーの進歩の結果、鍵盤楽器の分野でとてもユニークなタブラチュア譜が発明されました。



 そう、降ってくるピアノロールです。これを追うことによって弾く鍵盤がわかり、それを繰り返すことによって外面的にはピアノが弾けることになります…が、やはり降ってくるバーを見てそれに従っているだけなので、やはり音楽の構造に意識が向きづらいことは否定できないでしょう。聴覚上できちんと訓練を積んでいれば話は別ですが、そうでもない限りは延々と降ってくる指の運動指示にしかならないと考えられます。


 ピアノの弾き方も楽譜の読み方も学ばなくても弾けるという面は確かにありますが、それを本当にメリットと言ってしまって良いものなのかは甚だ疑問であります。言及の結果「五線譜を読まずに弾きたい人のニーズを否定するのか!」と絡まれたこともあるので批判は控えめにしておきますが、ピアノロールが降ってこないと弾けないようになるというのはどちらかと言うとデメリットなのではないかと思います。


 

 ところで、ピアノの五線譜に音名を振り、鍵盤にも音名を書いて(大抵の場合シールなどを貼って)、それを対応させて弾かせるという指導法があります。この行為の意味するところは、五線譜のタブ譜変換であると言うことも可能ではないかと思います。つまり、最初からグラフィカルな形で音楽を図示してあるものを、どの鍵盤をどの順番にどのタイミングで押すかという情報だけ抜き出してしまうということになるのです。


 確かにそれでも外面上ではピアノは弾けるでしょう。しかし、鍵盤の動作情報・指の動作情報ばかりがクローズアップされ、音楽自体についての情報への意識がどんどん隅に追いやられる可能性は少なくないと考えられます。楽器が弾けても自分がどのような音楽をやっているかがわからない、というやり方は少なくとも僕が望むものではありません。


 楽器を弾くことにおいても、まずは内的に音楽を創造確立し、それを楽器で表出するというプロセスが重要であろうと考えます。タブラチュア譜は外的演奏指示の方法として有用性を発揮しますが、内的音楽創造の方法としては適切とは言えないのではないでしょうか。


 降ってくるピアノロール動画も数が増えましたし、最近はなんと「楽譜に音名(多くは固定ド)を書き込む」というボロ儲けのような仕事もあるようです。ただ、"現物の魚を貰ったり買ったりすることよりも、魚を釣る方法を習得すること" を考えてみてもよいのではないかと感じるところであります。



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