《きよしこの夜》と言えば、世界的に多くの人々が知っているであろうクリスマス・キャロルでしょう。1818年にオーストリア・ザルツブルク州のオーベルンドルフにて制作されました。作詞はモール(Joseph Mohr, 1792-1848)、作曲はグルーバー(Franz Xaver Gruber, 1787-1863)です。モーツァルトより下り、ベートーヴェンやシューベルトらと同じ時代に書かれたものであることを考えると、そこまで古い曲ではないということに少々驚きます。
そういえば中学校の英語の教科書に、この曲の成立にまつわる逸話が教材として載っていたことを記憶しています。クリスマス・イヴの前日にオルガンが故障で鳴らなくなってしまい、急遽ギターで伴奏できる讃美歌を書き下ろした…という話でした。真偽のほどはわからないまでも、興味をひく逸話ではあるでしょう。
この誰もが知る《きよしこの夜》を、僕は2018年にピアノ連弾へと編曲しました。
2018年はドビュッシーの没後100年にあたる年でした。そこに絡めてドビュッシーの連弾作品をコンサートで取り上げたのですが、そのコンサートのアンコールのために作ったのがこの編曲です。
折角なので、そのコンサートのメインプログラムであったドビュッシーの《6つの古代の墓碑銘》という作品からの引用を含ませているほか、ドビュッシー作品の特徴的な書法を織り交ぜています。
ドビュッシーは第一次世界大戦の終結を待たずに亡くなりました。この戦争では多くの人々がナショナリズムに傾倒してしまった面もあり、ドビュッシーも例に漏れずドイツやオーストリアを敵視していたでしょう。「神様、奴等を罰してください!」「フランスに勝利あれ!」と歌う歌曲《もう家の無い子のクリスマス》まで作詞作曲しています。
この事情を知っていてドビュッシーの作風でオーストリアの讃美歌を編曲するのはどうなんだ?と思われるかもしれません。しかし、オーストリアとフランスが戦った第一次世界大戦は既に終わりました。今はもう、オーストリアで生まれた讃美歌とフランスで生まれた音楽語法が手を組んでもいいでしょう。
この編曲は演奏にかなり入念なリハーサルを要求する手前、難易度的には難しい部類の編曲であること認めねばなりません。カノン、ポリリズム、平行和音などの技法がぎっしり詰まった内容になっています。しかしそれ故の演奏効果は自負しております。これからのクリスマス本番に演奏してみてくださいね。
Comments