「大事なことなので2回言いました」という文言があります。一方で、僕はあまり聞いたことがないのですが「大事なことなので一度しか言いません」という文言もあるそうです。どうでもいいことは大抵一度言って終わりなのですから、大事なことを同じ扱いにしてはいけないだろうと思いますし、僕は大事なことは2回のみならず何度でも言う派です。
いずれにせよ、音楽表現としての訴求力の強さを獲得しやすいのは「何度でも言う」方でしょう。
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まず最初に示した楽譜は、カリッシミの室内カンタータ《Vittoria, mio, core!(勝ったのだ、私の心よ!)》です。心変わりした恋人への思いを断ち切ることができたと勝利宣言するという内容です。そういうことを歌う時点で未練も残っているのでは?とは考えなくもありません。
さて、冒頭から"Vittoria(勝利)"という言葉を繰り返し強調します。勝利した事実の強調というよりは、勝ったことにしたいという願望があって繰り返しているようにも見えます。続く"Non lagrimar piu(もう涙を流すことはない)"というところまで駄目押しのように繰り返しているのですから、どう見ても痩せ我慢のようです。
ところで、注目ポイントは歌詞だけでなく、歌詞の上に振ったヘクサコルド(6音の階名)にもあります。これら繰り返している重要な言葉の部分は、歌詞のみならず高さを変えた同一のメロディも反復しているのです。しかもその音高は高い方へと移高されています。後の方がより強調するわけですから、音の高さも高くした方がよりその効果が強まるのでしょう。移高された同一のメロディであるということは、ヘクサコルドによって顕になります。
カリッシミは17世紀半ば、皆様ご存じのJ.S.バッハやヘンデルが生まれるよりも前の時代の作曲家です。この時代には音高を上げて反復する表現が実践されていたのでしょうね。後の作曲家たちもこの手法を真似していることは多数指摘できるでしょう。
以下はカリッシミのオラトリオ『イェフタ』より。言葉の反復、さらに音を上げての言葉の反復が様々なところに出てきます。
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この表現手法については、カリッシミのすぐ後に来たヘンデルの有名な例を多くの方が知っていることでしょう。今や世界中で愛されるヘンデルの代表作オラトリオ『メサイア』の《ハレルヤ》の中盤にも、この手法は用いられています。ヘンデルの場合はカリッシミのエネルギッシュな音楽原理をさらに強烈に駆使したものです。
"King of kings" "Lord of lords"という言葉が、じわじわと上昇して天へ近づいていきます。ここにおける音高の上昇は、演奏者に対しても緊張感のあるエネルギーを要求します。それがそのまま音楽自体の高揚に直結するという見事な合唱書法であると言ってよいでしょう。
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声の表現力というものは時代を追ってどんどん発展してきたと思いますが、殊にダイナミックでエネルギッシュな表現力を獲得し始めたのは、調和を重んじたルネサンス時代を脱出したまさにバロック年間のことであるかもしれません。この時代の声楽音楽・合唱音楽から得られるものは多そうです。
【演奏会宣伝】
KI企画 演奏会
『バロック=ドラマティック』
日時
2023年4月8日(土)
13:30開場 14:00開演
16:00頃終演予定
会場
パルテノン多摩 小ホール
多摩市落合2-35
多摩センター駅より徒歩5分
入場料
前売 3,500円
曲目
【カリッシミ(1605-1674)】
オラトリオ『イェフタ』全曲
【J.S.バッハ(1685-1750)】
教会カンタータ『心と口と行いと生活で』より
世俗カンタータ『お喋りは止めて、お静かに』より
【モンテヴェルディ(1567-1643)】
オペラ『ポッペーアの戴冠』より
【ラモー(1683-1764)】
オペラ=バレ『優雅なインドの国々』より
【ヘンデル(1685-1759)】
オラトリオ『メサイア』より
他、バロック音楽名曲撰集
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