top of page
執筆者の写真Satoshi Enomoto

【演奏会告知】Razbliuto再始動:オペラから辿る音楽特集

 4年前から僕を知っている方々はご存じかと思いますが、ソプラノ歌手の川上智子さんと音楽ユニットを組んでいます。その名も Razbliuto 、「かつては愛していたが今はそうでない人に対する感傷」という意味の造語(元々ロシア語という説は誤解で、勝手に英語圏で定着したもの)だそうで、「振り返れるようになった感情が音楽に反映される」という青い発想で命名しました。「川上と榎本が過去に何かあったように誤解されるユニット名」と自分たちでネタにしたりもしていますが、そういう意味ではないです。


 第1回コンサートを赤坂のカーサ・クラシカでやったきり、お互いの予定が合わずに休眠中だったのですが、昨年の夏に身内向けの小さなコンサート(皆様のご協力のお陰で新型コロナ感染者無し)を行ったことによって企画が持ち上がり、ようやく第2回に漕ぎ着けました。ちなみに夏のコンサートでは川上さんの詩に僕が曲をつけた《紫陽花》の再演と《朝顔》の初演も行いまして、この自作自演プロジェクトも今後続けていくつもりです。


 ひとまず、コンサートの開催概要は以下の通り。



2021年2月28日(日)

12:00開場 12:30開演 14:30終演予定

入場料 3,000円

会場 Le Salon de Clavier(最寄り:JR田端駅、詳しい住所は予約者にお伝えします)

予約・問い合わせ 当サイトのCONTACTページ または virtuoso3104@gmail.com


プログラム

フンメル《『フィガロの結婚』からの主題による幻想曲》

プッチーニ《トゥーランドット》より

ヴァーグナー=リスト《イゾルデの愛の死》

レオンカヴァッロ《道化師》より


 第1回コンサートではドナウディを中心とする小規模なイタリア歌曲プログラムをお届けしました。うってかわって、今回はオペラアリアが中心となります。むしろオペラ作品を主軸として、そこにオペラ作曲家たちが書いた歌曲(これがまたあまりにも歌曲というよりもオペラアリアっぽい)や、オペラアリアを題材にしたピアノ作品、さらにはオペラ作曲家たちが書いた知られざるピアノ独奏作品を紐付けていきます。


 本当はもっと振り切ったテーマでマニアックなプログラムを組んでもよかったのですが、新型コロナウィルスの感染拡大の影響によって演奏会が消えていっている昨今、そもそも歌を聴く機会自体が無くなっています。ならばテーマ縛りを緩めてでも色々な曲を聴けた方が充足感を得られるように思い、一応の統一感は持たせつつも範囲広めのプログラムにしました。


 

 オペラのラインナップを書き出しますと、ドニゼッティの《リタ》、ヴェルディの《海賊》、プッチーニの《ラ・ボエーム》《トゥーランドット》、カタラーニの《ラ・ワリー》、レオンカヴァッロの《道化師》となります。イタリアオペラの中でもかなりダイナミックな部類の作品を集めたプログラムだと言っていいでしょう。


 まず、ここに歌曲がいくつか入ります。個人的に特筆すべきはドニゼッティの歌曲群でしょうか。川上さんから楽譜を受け取って譜読みをした段階で「本当に歌曲か!?」と思うほどの華やかさを備えています。合わせの時も「これオペラアリアじゃないんですか!?」「歌曲ですがそういう風に弾いて大丈夫です!」などというやり取りをしたレベルで書法がオペラアリアと聴き分けが付きません。オペラを書く作曲家の発想を知る楽しさが味わえると思います。


 そしてもうひとつの特集が、オペラやオペラ作曲家に関するピアノソロ作品です。こちらは榎本のソロになります。いくつか紹介しておきましょう。


 モーツァルトの弟子にしてベートーヴェンの友人として最近研究が進められているフンメルという作曲家がいます。このフンメルが書いた《『フィガロの結婚』からの主題による幻想曲》Op.124という作品を演奏します。フィガロがケルビーノに向けて歌う有名なアリア『もう飛ぶまいぞ、この蝶々』に基づく自由な変奏曲の形式になっています。フンメルは8歳の時から2年間住み込みでモーツァルトに師事しましたが、その師事を始めた時にちょうど作曲していたのが《フィガロの結婚》だったのでした。後年、その師匠の思い出に寄せて書かれた作品という位置を占めており、この人気のアリアがどのように変容していくかを追っていくと楽しいと思います。


 もうひとつ紹介したいのが、リスト編によるヴァーグナーの《イゾルデの愛の死》です。この曲はオペラを聴く人、ピアノを聴く人のみに限らず、クラシックを鑑賞する人全般にとって有名な作品でしょう。好きな人は徹底的に好き、嫌いな人は徹底的に嫌い、と反応が両極端に分かれるヴァーグナーの音楽ですが、特に《トリスタンとイゾルデ》は和声の解体の道筋を示した作品として音楽史の中でも無視できない存在です。ちなみにRazbliutoは2人ともヴァーグナーの音楽が好きです。この作品の持つ和声感に大きく影響(もしくは呪縛)を受けた作曲家は数知れず、どのように今回のプログラムに絡んでくるのかという面も見ていただきたいと思います。


 この他にも、先述のオペラ作曲家たち、ヴェルディ、プッチーニ、レオンカヴァッロのピアノソロ作品を演奏します。おそらく演奏される機会はどれも極端に少ない作品たちでありまして、オペラ作曲家の思考回路でピアノ曲を書くとこういう音楽になるのだなということがわかって面白いと思います。何よりもメロディが軒並み美しい。歌の国は器楽もこうなるのですね。


 

 合唱による感染クラスターも起き、飛沫が飛ぶものとして歌は真っ先に槍玉に挙げられてしまいました。すっかり歌を生で聴ける機会も減ってしまったことでしょう。客席の削減、こまめな換気、充分な距離、マスクや消毒の徹底などによってできる限りの感染対策を行いつつ決行したいと思っています。合わせの時も気を常に付けていまして、川上さんはこっちを向いて喋る時にいちいちマスクをしてくれるという徹底ぶりです。


 夏に川上さんたちと一緒に演奏した時も、秋に久しぶりに高津メンネルコールの伴奏をした時も、年末にソロで弾いた時も思ったことですが、演奏会が潰れてしまって音楽に飢えているのは、お客さんたちのみならず音楽家も同じなのです。ぜひ感染に気を付けてご来場いただき、音楽を共に楽しんでいただきたいと思います。よろしくお願いします。

閲覧数:155回0件のコメント

Comments


bottom of page