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執筆者の写真Satoshi Enomoto

【雑記】ベートーヴェンと神童営業


 ベートーヴェンの生誕250周年である2020年に予定されていた数々のベートーヴェン関連行事がコロナ禍の直撃を受けて延期・中止になり、早くも2年が経ちました。僕自身も自主企画で「よっしゃ、ベートーヴェンのソナタとかめっちゃ弾くぞ!」と意気込んでいましたが、今やソナタ計画は白紙であります。


 この度、ようやく来年にラ・フォル・ジュルネTOKYO2023が開催されることになり、そのテーマは引き続き「Beethoven ─ ベートーヴェン」とのことで、止まっていた時間が動き出すような感慨を覚えております。


 

 ところで、ベートーヴェンは自身の年齢を正確に認識できていなかったという話があります。


 当人は自らの年齢を実年齢よりも若く認識していました。『ハイリゲンシュタットの遺書』を書いた1802年の10月6日の時点で、1770年の12月生まれのベートーヴェンは31歳だったはずです。ところがそこには「28歳でやむを得ず早くも悟った人間になることは容易ではない」という記述があり、自身の年齢を若く誤認していることが窺えます。


 年齢確認の必要な出来事があったのか、1810年には洗礼証明書を取り寄せて1770年生まれであることが確認されています。ところがベートーヴェンはこれを否定、自身の手によるであろう1772年という訂正が残っています。


 2020年にベートーヴェンの本当の生誕250周年を大々的なイベントで祝うことは叶わなかったものの、ベートーヴェン自身が自らを2, 3歳若く認識していたならば、当人の認識に従って2, 3年後まで「生誕250周年」をやってもよいのでは…などという屁理屈を捏ねることができるわけでして、かく言う僕も「本人が1772年生まれって言ってるから2022年まで祝ってOK」というガバガバな考えで来月にオール・ベートーヴェン・プログラムをやろうとしているわけです。


 

 ところで。では何故、ベートーヴェンは自身の年齢を若い方向に誤認していたのでしょうか。


 恐らく、十中八九、それは幼いベートーヴェンを神童に仕立て上げようとした父親ヨハンが原因でしょう。ベートーヴェンはこの酒浸りの父親を生涯恨んでいたようです。


 ベートーヴェンの生まれる少し前に、西洋音楽史上には一人の大天才が出現しました。そう、かのモーツァルトであります。35歳という若さで亡くなりましたが、5歳の頃には作曲を始めていたのですから、活動期間は年齢に比してかなり長いと言えるでしょう。


 さて、神童モーツァルトがヒットしたとすれば、二匹目のドジョウを狙う輩が出てくることは予想できるでしょう。その二匹目のドジョウに据えられる羽目になったのがベートーヴェンでした。神童PRのために少年ベートーヴェンの年齢詐称すら行った父。本人が2, 3歳若く自身の年齢を誤認していたのは、父親が2, 3歳の鯖を読んで広めたことに起因するのでしょう。


 ベートーヴェンは神童営業の被害者なのだよなぁ…と考えると、どうも2, 3年後にも「生誕250周年おめでとう!」をこじつけようとすることに罪悪感が湧いてくるのですが、いやしかし現実にはどうせコロナ禍で本来の生誕250周年は2020年中に祝えなかったわけで、ただ単純に「延期したものを今やるんだよ! おめでとう!」くらいの心持ちでコンサートをやろうと思う次第であります。


 流石に現代で年齢誤認は無いにせよ、無茶な神童扱いなどによってどこかで人生が狂ったりする人は存在するのではないか…とは、メディア社会の振る舞いを見ながら考えなくもなかったりします。

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