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執筆者の写真Satoshi Enomoto

【レッスン・雑記】"オンライン"のピアノレッスンで零れるものと拾えるもの


 今月は珍しくピアノのオンラインレッスンを頼まれました。時々書いていますが、家に高齢の祖父母がいるため、感染が終息するまでは色々な人を家にあげて対面レッスンができない状態にあるのです。出張レッスンも受け付けてはいるものの、やはり交通費やスタジオ代がかかったりもしますし、そして此度の緊急事態宣言3度目発令ともなってしまっては、さらに足を運ぶこともできなくなるというものです。結果的に現在なおレッスン系はほぼオンライン内で行っておりまして、外に出ているのは伴奏の仕事だけですね。


 

 さて、オンラインでのピアノレッスンも何度か経験しまして、実技レッスンのなんとなくのやり方というか、どんな具合のものになるのかということがだんだんと掴めてきました。所感をここにまとめておきたいと思います。


 まず、多くの指導者たちも言うであろう「実技レッスンは対面の方がよい。オンラインは仕方なくの代替手段」という意見について。個人的にはやはり、対面でなければやり取りできない要素があることはどうしても否定できないと思います。聴こえてくるのはあくまでもマイクとネットとスピーカーを通した音であり、双方の機材環境にも大きく影響を受けると思います。音の多い曲などではそもそも全部の音がどちらからも届いてくれないことさえありますし、生の楽器がどう響くかということが聴こえないことによって、細かいニュアンスやタッチ、デュナーミクの調整を指摘することはなかなか難しいように思えます。このあたりの観点に限っては「オンラインは仕方なく」であるという域を出るのは難しいでしょう。


 ちなみに、これを少しでもマシにしようと思った時に取れるのが「演奏動画を録って予め送ってもらい、それを確認して改善点を指摘する」というレッスン方式ではないかと感じました。ネット回線の影響だけは回避できますし、指導者側も何度も聴き返して様々な助言を用意することができます。むしろレッスンで提示したい資料などをこちらが用意する時間も作れますし、この面では対面レッスンよりも余裕をもってレッスンできているかもしれません。オンラインの実技レッスンは今後基本的にこの方式でいこうかと思います。


 また、オンライン化によって意外にもそこまで失われなかったのが、レッスン受講者がどのように体を使ってピアノを弾いているかという情報でした。音の情報自体は通話を通してしまってそこまで明瞭でなくとも、余計な体の使い方をしている箇所が目で見えるだけでもいくらか改善点を特定できました。もちろん受講者の撮影に依存している節を否定できないですし、対面ならばより高い精度で観察や指摘ができるかと言えばその通りです。これについては "思っていたよりはだいぶマシ" といった位置付けでしょうか。


 

 実技レッスンとして限界があることはまず認めねばなりません。しかし、いやだからこそ、むしろ実技一辺倒から一歩退いたアプローチができる… "弾きまくる" ような取り組みにならないでいられることもまた事実ではないかと感じています。


 オンライン以前にも実感のある方は少なくないと思うのですが、その楽曲に対するイメージや考え方が更新されるだけでも、弾き方は自然に変わったりもします。僕などはそれを納得するために構造だの和声だのと理屈を捏ね回すスタンスであるわけですが、オンラインレッスンはそちらに利する機能が色々と備わっているのです。


 個人的には何と言っても画面共有機能がとても役に立っています。こちらのメモを見せたり、関連楽曲の譜面を提示したり、さらにはリアルタイムでこちらが楽譜に書き込む(しかも試行錯誤の書き直しもできる)情報を共有できるわけですから、この点に関してのみは対面レッスンよりも便利であるかもしれません。入り組んだ音型のどの音を右手 / 左手で取るのかといった手先のことからフレーズや構造の分析まで、やたらに弾きまくるのではなく "考えて試行錯誤する" ことに重心を置くレッスンが可能になると思います。まだ用意していませんが、様々な書籍や論文をその場で引っ張り出してくるなんてことも後々できたら面白いかなと考えています。


 ピアノが弾きにくいということにおいて考えられる要因は、確かに第一には体の使い方かピアノの使い方かが考えられるわけですが、意外と "音楽の考え方" という要因も小さくはなかったりするものです。本当に些細な発想転換で音楽は大きく変わるのです。必死に力尽くで譜面の見た目通りの音を再現しようとするのではなく、どのような方向性でどのように整理するのかがわかるだけでも、より良いエネルギー配分や効率的な練習法も見えてきますし、却ってそちらの方が音楽の情感も丁度良いなどということは多々あります。


 ちなみに今月レッスンした方…というか、大学の同期なのですけれども、「1ヶ月頑張ってどうしても弾けなかったところがすぐに弾けるようになった。謎」と言っていたので僕は満足です(笑)


 

 僕はオンラインでソルフェージュや音楽理論(楽典、和声法)などもレッスンしていますが、そちらに最初はピアノよりも力を入れていました。というのも、ピアノ実技のレッスンよりはオンライン化によって失うものが少ないだろうと考えてのことでした。結局はソルフェージュで伴唱(声による伴奏)することに難があったり、複数の資料と通話アプリを同時に開くことにPCのスペックがついていけなかったりという障壁には見舞われたのですが、じっくり考えながら音楽に向き合うスタンスは通せそうだとは感じます。


 ということはピアノ実技のレッスンもそちらの方向からアプローチすれば良いのではという考えに至った次第です。やはりピアノという楽器の演奏には全身運動の快感が付随する面がありまして、どうしても "弾きまくる" 方向に取り組みが寄ってしまいがちです。僕も昔はそうでした。ピアノ弾きは一般の感覚からすれば恐ろしい時間練習しているような人種でして、あの時間がまったく無駄だったとは言いませんが、いくらかでも「弾くことから一歩退いて音楽を考える時間」を設けた方がもっと良い音楽ができたのではないかなと思わないこともないです。


 緊急事態宣言も出てしまいましたし、コンサートの延期も周囲で起こっています。変に時間も空いてしまいましたから、この期間もまだとにかく弾きまくると逆にマンネリを引き起こすこともあるかもしれません。ちょっとここで譜面を読んだり資料を漁ったりして音楽を考える時間を設けてもよいかもしれませんよ。そして、その手段として捉えた時のオンラインレッスンという形態は、対面レッスンの代替に留まらない効果を発揮できるのではないでしょうか。


 オンラインレッスンは対面レッスンの代替として始まったでしょう。ただ、やり方によっては、そこまで代替として下に見る必要もないのではないかと感じたのでありました。

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