クラシックの聴衆の年齢層はどんどん高くなっていて、はっきり言って新規の若い聴衆を獲得することにおいては難航しているのが実際のところでしょう。先日のショパンコンクールで意外な盛り上がりがあったり、YouTuberもやっている演奏家たちやストリートピアノなどを通してクラシックが認知される機会もひとまずは増えているようには感じます。
まあ、新規聴衆獲得に関する議論は不定期的に起こっては何がなんだかわからないうちに自然消滅するということを繰り返していまして、僕自身も特に「これだ!」と言える答えも出ないまま観察する程度になりました。僕は僕が考えることをやるだけです。
さて、今回の話題はそちらではなく、既にクラシックを聴いている人の観賞姿勢についてのものです。一部の演奏家の努力によって流れが変わりつつある面もあるとは思うのですが、概してクラシックの聴衆は保守的であります。それは特に "狭義のクラシック" のみに興味を持っているという意味での保守です。
クラシックといっても、その範囲がどこからどこまでを指すのかには差があります。しかし最狭義の範囲は恐らく「バロック後期からロマン派まで」、1700年頃から1900年頃までのおよそ200年間ということでだいたい一致しているのではないかと思われます。世間の大半のクラシックのコンサートのプログラムを占める楽曲群は殆どその200年間に入っているでしょう。もう少し頑張ると1900年代の半ばまで行くかもしれませんが。
ある意味でその200年間の音楽を押さえてしまえば、世のクラシックのコンサートの曲目はだいたい知っている曲ばかりになると言っても過言ではないでしょう。既知の作品は未知の作品よりも安心できるという面もあるのか、限られた200年間の特定の作曲家の特定の作品が繰り返し演奏されてきているというのが現状であると思います。そしてそれが煮詰まると、だんだんと「この作曲家のこの作品はこのように演奏されるもの」というモデルが出来上がり始め、後続の演奏家たちもそのような演奏を目指して鍛練を積むということに繋がっていきます。
クラシックの閉塞は、「特定の作曲家の特定の作品が特定の流儀で演奏される」ということにあると考えます。しかもそれこそがクラシックの「王道」や「正統」などと呼ばれて重宝され、それ以外の在り方は「邪道」と呼ばれて需要の方さえ無くなってしまっています。演奏する側としては需要のあるものを供給した方が収益の効率は良いですし、聴衆の需要がどんどん限定的になっていくことはもしかすると都合の良いことなのかもしれませんが。同じ曲を同じように演奏するだけでお金が入ってくるともなれば蔵出しだけで稼げるのですから、こんなに美味しいことは他に無いでしょう。この仕組みの補強には権威付けが有効であることも伺えます。
クラシックの閉塞的権威主義を打破するには、演奏者側が権威の外にあるものを供給するか、もしくは聴衆が需要の範囲を大きく拡げるかという2つの方法があります。前者は下手をすると演奏者が赤字を出す危険性もあるのですが、後者はただ単に聴衆が「色々なものに興味を持って聴こうとする」という、それだけでよいのです。
クラシック内でも、バッハやヘンデル世代より前のバロック前期以前、あるいは20世紀以降の音楽に興味を持っていただくだけでもきっと変わります。実は先日の "最狭義のクラシック" の範囲内における音楽様式はかなり限定的です。多くの作曲家たちが割とみんな似通った様式で書いていた時代です(だからこそまとめられているのでしょうが)。その前後こそは、むしろ多様性しかないような時代でありまして、一聴するとカオティックに聴こえるかもしれませんが、そこにその時代ごとの音楽的豊かさがあるわけです。
バロック前期から遡って、ルネサンス、中世… 後期ロマン派から進んで、第1次大戦前、大戦間、第2次大戦後、そして現在… 色々ありすぎて迷ってしまいそうになることはあるかもしれません。そんな時はそのような音楽を演奏するコンサートに足を運ぶことが最も手っ取り早いと言ってよいと思います。まさかそのような音楽を演奏しようとする演奏家が自分でわけもわからず演奏会をやろうとしているなどということは殆ど無いと思います。少なくとも何らかのヒントを与えてはくれるでしょう。
そして理想としましては、既にクラシックを聴いている人たちにはクラシックでない音楽も聴いてほしいと思います。「西洋の芸術音楽」という括りの時点で相当に範囲を限定されている音楽です。それらに該当しない音楽の方が世界の中では多いと言ってよいでしょう。音階がドレミですんなりと表せて、5本線で書かれた楽譜があって、標準となる音高が定められていて…などという音楽の方が少数派です。クラシックでさえ、そのルーツは特定の民族音楽の一つです。
ジャズやロックなんかは現代人には既に身近でしょうが、もはやそれらにさえ留まること無く、アヴァンギャルドや日本を含む世界の民族音楽なども聴き、自身の触れている音楽の多様性を拡げていただきたいと思います。興味を持っていただきさえすれば、あとは音楽家の方から出るものが出てくるでしょう。
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