top of page
  • 執筆者の写真Satoshi Enomoto

【音楽理論・雑記】楽譜の読み方ではなく書き方から探求すること


 「階名を五線譜とどのように紐付けたらよいかわからない」という質問がありました。


 なるほど確かに、そのような疑問は必ずしも階名に否定的でない人たちの中でもあるようです。特にそれは自分が勉強する時よりも、むしろ他人に指導する時の悩みであるかもしれません。


 五線譜の見かけ上で言えば、あらゆる線と間がドやラになり得るというのは複雑に見えるでしょう。音部記号が何で、何調だからこの線 / 間 がド…などといちいち覚えて攻略しようとすれば、最初から音名で認識した方が早いのではないかという考えになるのも理解はできます。このことが主に「移動ドのデメリット」として紹介されるようです。


 楽器にせよ声にせよ、特定の音部記号と線間の位置だけ覚えてしまえば、自分のやる範囲内だけは対応できてしまうので「そちらの方が手っ取り早い」と言われるのでしょう。例えば現代のピアノに関して言えば、高音部譜表と低音部譜表さえ覚えれば殆どの楽譜は読めるようになります。ハ音記号を目にすることは無いわけですね。


 階名は音楽内の各音の関係をラベリングしたもの…とざっくりながら言うことができると思いますが、案外忘れがちなのは、必ずしも五線譜という表記方法を前提としていないという事実であります。音楽とは目に見えないものでありまして、楽譜とは "目に見えない音楽をどうにか目に見える形で記録しようとしたもの" でしかないのです。


 階名の認識はこの楽譜というものを経由する必要は基本的には無いのであります。耳コピをする時も、脳内で五線譜として表示されているわけではありません。EとFの間の音を根音にして三和音をハモるなどということができるのも、鳴らさねばならない絶対音高を五線譜的に認識して歌っているからではなく、もっと身も蓋も無くハモるところでハモらせているだけなのです。


 とは言っても今や五線譜のある音楽に囲まれて音楽をやっているわけでして、確かに五線譜を階名で読めた方が実生活にも即するであろうことは理解できます。したがいまして、例えば「調号の最も右側の♯がティ」「調号の最も右側の♭がファ」「増4度音程はファ-ティ」…などという目安を立てて読み、これである程度こなせたりもするのですが、しかしこれでも心許なさを感じる方はいらっしゃるかもしれません。


 しかも、やはり「調号とは?」「音程とは?」という楽典的な知識が進んだところで判断できるものでもあります。これが大人相手ならまだしも、小さな子供たちに教えるとなるとどうしてもハードルが高いように思われます。まあそれを言うならば五線譜自体も充分にハードルの高い代物だと思うのですけれども。


 そこで考えてみたのは、「五線譜の読み方ではなく、楽譜の書き方から学習させるのはどうだろう」というものでした。音楽は目に見えません。耳で聴こえた音楽をどのように記録するかということの模索を通して、五線譜へと誘導していくわけです。


 恐らく人間の最初の音楽記録方法は口唱歌であったでしょう。擬楽唱などとも呼ばれるようですが、音楽のイントネーションを言葉のイントネーションで表すものです。地域の伝統芸能などにも未だに残っているのではないでしょうか。


 それだけだと音楽の構造組織への視点がどうしても乏しくなります。一般化ができないわけですね。絶対的な音高はわからないまでも、音楽の中で音階組織の同じ位置にある音に同じ名前を振れば、これが階名になっていくわけです。この階名を、いきなり五線譜に適用するのではなく、最初はトニック・ソルファ譜や数字譜に書き起こすということをやってみてもよいのではないかと思います。


 そして、そのトニック・ソルファ譜や数字譜を線譜に変換していきます。この時、音部記号は書きません。また線譜も五線には限らないものとしても良いと思います。3線でも4線でもよいでしょう。毎回基準の線 / 間も変え、完成した線譜が様々な見た目になるように工夫します。


 それを繰り返しながら五線に着地します。まだ音部記号は書きません。音楽によっては基準の線 / 間をその時々で設定した方が「五線内に上手い具合に書き込める」という体験を得ることも、ここでできるでしょう。


 指定された音高で表記するという必要が現れて初めて、音部記号が登場します。それは単独とは限らず、複数のパート、あるいは声や楽器が一体となって音楽を行う瞬間に必要となるものでしょう。声にも楽器にも音域には限界があります。自分のパートとその上にハモるパートがあった時、自分があまり高い音で歌いすぎると、その上のパートの人の声域を上方に突破するかもしれません。特定の音高という観点が気にされるようになるのはそこからでありましょう。


 この手順を踏めば、どの線 / 間に音符が書かれていても階名として認識することに違和感を無くすことができる上、高音部譜表や低音部譜表のみならず他の譜表の必要性も学習できるのではないかと考えます。


 また階名とは関係無く、楽譜が音楽の記録手段であるという視点に繋げることができるとも思います。楽譜はそこまで厳密に音楽を表記できるものではなく、どうしても近似的なものであるということを体験することで、普段の楽譜を見る目線も変わるかもしれません。


 既に存在する楽譜を読もうとするばかりではなく、音楽を楽譜の形に書こうとするということを、たまには試みてみるのもよいと思います。

閲覧数:145回0件のコメント

Comments


bottom of page