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  • 執筆者の写真Satoshi Enomoto

【ソルフェージュ】初めましてだけど実は再会:面影から導く初見演奏


 ソルフェージュのレッスンでもピアノのレッスンでも、「初見ってどうしたらできるようになりますか?」といった質問をされます。僕だってそんなに初見が利く人間じゃないが…などとは思いつつも、まあ確かにその場で出された伴奏譜やコード譜をパッパカと読んで弾いたりする様子は、見ている側からすると特殊技能のようなものに映るのでしょう。


 実のところそれはトリックのある特殊技能であり、やり方さえ掴めば個人差はあれども大抵の人はできるようになることだと思っております。


 なお、これは頻繁に話題に挙げられるような「絶対音感」なるものとは全く無縁の技術です。まあ確かにそれを利用して一音符一音高(または一鍵)を結び付ける方法を採って、MIDIを再生するかのように演奏できる人も存在はするでしょう。しかし僕が採っているのはそのような方法ではありません。


 もちろん、単音ごとの音高を全く読んでいないというわけでもありません。声で視唱するという時にはもうほぼ読まなくなりましたが、ピアノの視奏の時は鍵盤上における位置把握のために考えています。


 念のために、初見でザクザクと演奏できる方が必ずしも良い音楽をするとは限らないということも注記しておきましょうか。速く読めることと、音楽を深められるかは完全に別ではないにせよ完全に同じでもないです。速く読めた方が音楽を深めるために費やせる時間はたくさん手に入るであろうということだけです。


 

 僕個人の手の内について書きますと、「曲の構造を把握しようとすること」を方針としています。階名を振ることによってどの音がどの音へ繋がっているのかを確認し、和声を読み取ることによって音楽がどこへ進んでいくかを掴むのです。


・どのようなメロディであるか

・どのようなフレーズであるか

・どのようなハーモニーに支えられているか

・どのように音楽が展開していくか(形式)

・どのような技術を以て演奏すればよいか


 …言葉にしようとするとキリが無いですが、やっていることの取っ掛かりはこのような観点です。ひとまずは音楽の流れさえ掴んでおけば、細部が大雑把になってしまってもだいたいは聴ける音楽にはなるものです。本当は細部が大雑把ではいけないのは言わずもがなですが。


 

 実は、今回の本題はここからであります。


 「この音楽はどんな音楽なんだろう?」ということを読み取り、考える訓練を積んでいくうちに、経験則が活性化し始めます。異なる音楽作品における共通した要素に気付くようになってくるのです。この跳躍音型は歌ったことがあるぞ、この和音進行は弾いたことがあるぞ、こういう音楽の展開は知っているぞ、などといった具合ですね。


 このような認識感覚のことを、僕自身は「初めましてだけど実は再会」などと呼んでいます。目の前にしたその作品は確かに初見なのですけれども、しかしその中身には初見ではない音楽が鏤められているのであります。初めて出会った相手に、別の誰かの面影を見出すようなものです。


 このようなことから導き出せるのは、我武者羅に初見課題を千切っては投げ千切っては投げという取り組み方では習得の効率も悪かろうという予想です。ではどうしたらよいのかということを、最も身近なところで挙げてみます。


 「こなしていく初見課題同士に共通する音楽的要素を探る」


 これをやってみてはいかがでしょうか。もちろんこの分析をするにあたって階名や和声は役立つことになるわけですが、せっかく曲らしい曲が手元にあるわけですから、教科書体系的に勉強することはそれとしつつ、手元の楽曲を教材としてしまえばよいでしょう。


 それら課題の中に共通する要素、普遍的な要素を見出した瞬間から、その後に出会う楽曲たちの中に "面影" を感じるようになるでしょう。こうして「初めまして!」の作品は「また会ったね!」の作品になるのであります。


 この感覚を持つ方向に取り組んでいただくと、悩んでいる方々にとっては一つの突破口になるのではないか…と考えています。

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