何か物語を思い浮かべていただきたいのですが、事件が起きて~それが発展して~結末がどうなる、という流れが(程度の差はあれ)存在すると思います。それを「起承転結」などという言葉で表したりしますね。
元々は漢詩の絶句の構成「起句」「承句」「転句」「結句」のことだそうです。四コマ漫画で説明される場合が多いですけれども、例えば推理小説で「事件が起きて」「探偵が登場して」「調査からトリックが暴かれて」「事件が解決する」というのも起承転結でしょう。
今日書くのは音楽における「形式」の話です。
音楽は時間の上に構成される作品です。絵画のように描かれた情報が同時に飛び込んでくるものではなく、映画のように物語が時間の経過を伴うものでなのです。映画で言えばより興奮を提供できる物語の展開方法、弁論で言えばより相手を納得させることができる論法…その、「どのような音楽がどのような順番で現れて論理を形成するか」という手順が音楽の形式というものなのです。
巷で流行りのポップスを思い浮かべてください。そうですね、とりあえずRADWIMPSの《なんでもないや》を例に、形式を考えてみましょうか。
メロディの雰囲気が変化するところで区切ってみますと、《なんでもないや》はこのような形式でできていることがわかります。
大抵のポップスで最も相手に聴かせたい部分は「サビ」と呼ばれる部分です。《なんでもないや》の場合、最後のサビは2回繰り返し、後の方は半音上げて転調します。一番最後のサビですからね、強調するために高く転調するわけです。
しかし、サビばかりを並べてしまうと、逆にサビ自体が目立たないものになってしまいます。それをどのように解決するかというと、サビほどは目立たない部分を曲の中に作るわけです。それがサビ以外の様々なメロディです。AメロやBメロがそれ自体は地味でもサビに向かって聴き手の気持ちを盛り上げる効果を持っていたり、Cメロがちょっと違う雰囲気を音楽に挿入したりすることによって、より音楽の起伏が大きくなり、トータルの内容が充実するのです。
このように、音楽を作る人たちは「音楽の形式」を気にしています。
さて、クラシック音楽というものはこの「音楽の形式」が単純なものから非常に複雑なものまで数多くあります。それこそ教科書で決まっているものですらありませんから、驚くほど奇抜な形式の音楽作品もあります。
「クラシック音楽の聴き方がわからない…」と言われてしまう一つの原因はまさにこの「形式がわからない」ことにあるでしょう。一般的なポップスの形式とはまた異なるものだらけですし、そのせいで「聴きどころがどこなのかもわからない」ということさえ起きてしまうのだと思われます。
しかし安心してください。クラシックの中でも特に複雑な形式を持つ作品なんかだとプロでさえ頭を抱えますし、クラシックのファンもそこまで理解できているというわけでもないと思います。しかも、楽式論という音楽の形式を研究する学問まであります。やはりそれなりに奥深い話なのです。
というわけで、そんなクラシック音楽の形式の中でも代表的なものをいくつか紹介していきます。
三部形式
最も「まとまった音楽」っぽく聴かせることができる形式です。一般的なポップスよりもわかりやすいでしょう、メインの音楽で別の音楽をサンドイッチのように挟む形です。
例えるなら、落ち着いた雰囲気のAで始まり、激しくなるBに到達し、また最初の落ち着いたAの音楽が戻ってくるというものです。これによって「一時はどうなるかと思ったけれど無事に戻って来られた安心感」といったものを聴き手に与えることができます。
一般にも親しまれているクラシックの作品で使われていることが多いです。ベートーヴェンの悲愴ソナタの緩徐楽章なんかがこれにあたります。また、即興演奏をする時はこの形式に填め込むように作ると上手くまとまります。
複合三部形式
三部形式が少し複雑になります。と言っても、三部形式を形作っていた3部分がさらに細かく分かれているものです。三部形式の演出効果を失わずに、多くの種類の音楽を挿入して音楽の充実度を上げることができます。
ソナタ形式
出ました、名前は頻繁に聞くけれどその内容はあまり知られていないのではないかと思われる「ソナタ形式」です。曲名に「ソナタ」と付くものにはソナタ形式で書かれた楽章が入っているはず?(※例外は割と多い)
三部形式の発展形態だと思うと理解しやすいと思います。
まず提示部は、このソナタのテーマ(主題)となるメロディを示す部分です。ここには対比される性格を持つ2つのテーマが現れ、それぞれ第1主題、第2主題と呼びます(本当は他にも要素があるのですが複雑になるので割愛)。
これら主題が中間部たる展開部において対立したり絡み合ったり新しい音楽に発展したりします。
そしてゴチャゴチャする展開部を経て「ところで主題はこんな感じだったよね~」と出てくる再現部で聴き手は再び主題に会えて安心するというわけです。戻ってくるからこそ、展開部ではどんなに実験的なことをしてもいいのです。
「今日はこんな食材で料理を作るよ!」と言って、材料を見せるのが提示部、調理するのが展開部、出来上がった料理を味わって材料に思いを馳せるのが再現部…と喩えたら語弊がありますかね?(笑)
ちなみに、作曲家たちはこのソナタ形式に教科書的に則るだけではなく、序奏部を加えたり、終結部(コーダ)を加えたり、さらには主題を第3主題まで増やしたりと、様々な工夫を凝らしてきました。しかし、この基本形式だけ知っておけば、応用的な作品に接しても「なるほど序奏が付いているのか」などと考えることもできるでしょう。
ロンド形式
三部形式が複数くっついたような形をしています。メインのテーマAが何度も現れるその間にBやCやDといった多様な音楽が挟まってきます。
メインテーマが戻ってくる快感を何度も味わえる上に、ちょこちょこ他の雰囲気も味わえるというお得セットのような形式でして、聴き手のテンションを上げるような演出効果をもたらします。したがって、交響曲やソナタなどの終楽章において、このロンド形式が採られていることが多いです。
変奏曲形式
最初に現れたテーマがどんどんアレンジを加えられて繰り返されていく形式です。言わばずっとテーマAがA2、A3、A4と連なっていくことになるため、面白いアレンジをすることで聴き手を楽しませるための形式です。面白くないアレンジをすると飽きられて駄作の烙印を押されます。
「変奏曲」とタイトルにつく作品はこの変奏曲形式で書かれています。流行りのメロディや有名曲のテーマを作曲者の語法でアレンジしまくるというエンタメ要素が強いです。
これだけを知っておけば大体のクラシックの作品は「~形式の応用」と捉えて聴けるかと思います。決してこれがすべてというわけではなく、挙句の果てには「形式の無い作品」などというのもあったりするのですが…
実際にクラシック音楽の作品を聴くときには、短い曲からでも「これはどんな形式になっているのかな?」などと考えながら聴くようにしてみると、そのうち10分や20分といった長い曲でもその演出をいちいち受け止めながら聴いて楽しむことができるようになります。お試しあれ…!
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