3/12の夕方から行われたLutherヒロシ市村先生の配信ライヴを観ましたので、その感想を書いていきたいと思います。
オープニングはピアノの伊藤那実さんのソロによる、森雄太さんのピアノソロ小品《三元豚のねぎ塩豚カルビ弁当(麦飯)に寄す》でした。タイトルが未だに覚えられません…が、印象に残るメロディなので時々聴くと「やっぱりいい曲だな…」と思ったりもします。伊藤さんのソロでオープニングというのも定番になってきたようで安心感があります。
そして最初の歌はSEIGIさんの《序 ― 友がなくては》。先日の市ヶ谷ルーテルでのリサイタルでもオープニングとして歌われていました。実のところ、この曲をこれまでにLuther先生以外の演奏で聴いたことは無いのですが、八木重吉のこの詩が温かみのある低声で歌われるというのは効果的な組み合わせではないかと感じます。先のピアノ小品と併せてこれら2曲によるオープニングの快さは一つの定型にできそうです。
此度のライヴのメインはこの後からでしょう。森雄太さんの《推しが尊い》低声独唱版の演奏でした。予めプログラムはすべて公開されていたので、この曲を歌うことももちろん知っておりましたが、気になっていた点は2つありました。一つ目は曲中でのガチャを引く演技の部分、二つ目は合唱編成前提で書かれている曲の独唱編曲時の歌詞処理です。
《推しが尊い》のガチャはスマートフォンやタブレットでのゲームにおけるガチャを想定して書かれているでしょう。そしてそういった端末でガチャを引くゲームをLuther先生がプレイしないであろうことは、去年の副次的文化系合唱祭の練習時にコールなみメンバーは見ているのです。「ガチャというのは(カプセルトイの)ガチャガチャとは違うのですか?」と尋ねたLuther先生に、実際に伊藤さんがガチャの画面を提示して引かせていたのを覚えています。Luther先生のガチャ演出とはどうなるのだろう…と思っていましたが、どうやら伊藤さんがしっかりとサポートしていたようです。
そしてもう一つの注目ポイントである森雄太さんの独唱編曲の手腕は参考になりました。合唱版で歌われていた歌詞が無くなってしまって大丈夫なのだろうか…と思っていたのですが、音をピアノに任せても効果的に書法を工夫することによって、物足りなさを感じさせないようにすることは可能であるようです。ライヴの中でもそれについては言及されたので、ネタバレ防止のためにここには詳細は書きません。
さらに次に歌われたのは、これも森雄太さんの《カップ焼きそばは焼いていない件及び、それに類似するその他諸々の案件についてただ淡々と述べるだけの歌》でした。森さん自身が副次的文化系歌曲祭で歌ったと記憶していますが、なるほど、様々な動作演出を加える余白をもった曲であるようです。細やかかつコミカルな演技を挿入できるLuther先生の強みが活かせるという利点もあったのでしょう。僕自身は悪い意味で構成の堅い曲を書きがちなので、この点は見習いたいところです。
今回はソプラノとして三輪えり花先生も出演されました。えり花先生の歌を聴くのはしばらくぶりでしたが、以前聴いた時よりも格段に進歩していて驚きました。『コジ・ファン・トゥッテ』の"Smanie implacabili"と、Luther先生との二重唱で『魔笛』の"Bei Männern, welche Liebe fühlen"でしたが、歌に余裕が出てきた分なのか、えり花先生の表情や所作も楽しく観ることができました。そもそも演出家・俳優が歌を習得しているという順ですから、えり花先生の本領が段々と現れ始めているという見方の方が的確なのかもしれません。
最後は『魔笛』のザラストロ"In diesen heil’gen Hallen"でした。実は僕も今伴奏を頼まれて練習している曲だったりします。ライヴの中でも言っていましたが、Luther先生のレパートリーには違いないとは思いつつも、最近はLuther先生の歌う純正のバス・アリアを聴いていなかったような気がします。それもそのはず、前回のリサイタルでは副次的文化系合唱祭から連想された曲がテーマとなっていましたから、西洋のクラシックはプログラムに入っていなかったのでした。久々にLuther先生のバスの本領を聴いた気がします。完全に個人的な要望ではありますが、Luther先生のバス・レパートリーに振り切ったプログラムも聴いてみたいと思いました。
Luther先生は今年の自主企画は生の公演を一旦お休みして配信による活動を試みるそうです。ただ、既にTwitter上で一般に見えるやり取りをしたので情報を書いておきますが、実はLuther先生から榎本はとある発注を一件承っています。これは今年の後半には皆様のところへも届けられるでしょう。今後も更新される情報を追っていただけるとありがたいです。
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