階名とは、全音または半音という距離=音程をもって音が並ぶことによって作られる音階における、それら構成音の音階組織内の立ち位置を呼んだ名前のことです。したがって1種類の音高が存在しただけでは階名も存在せず、2種類以上の音高が存在して初めて階名は定められます…という話は過去記事参照です。
ところで、それでは1つだけの音高を呼ぶ名前は無いのかというと、それが音名と呼ばれるものです。
…いや、音名と呼ばれるものだということになっている、とでも言いましょうか。
音高にそもそも名前はありません。一つの音について、絶対的な音高を客観的に指し示せる言葉があるとすれば、それは周波数です。これは440Hzの音、それは660Hzの音、などといった具合です。そこに音階のような段階は無いはずです。
しかし楽典では、次のように音名が定められています。そして、それは階名における音程関係と同じように並んでいます。
絶対的な音高に段階が定められているのもおかしな話です。EとFの間にも音は存在します。しかし、このような半音よりも狭い音程で存在する音は微分音と呼ばれて特殊なものとして扱われます。
音名とは絶対的な音高の名前とされています。しかしそれは一つ一つが「[Q]の音は周波数[F]Hz」などと決められたものではなく、一つの音だけが周波数で定められ、残りは階名における音程関係に合わせて、音階が形成されるように段階分けした音に割り振られた名前なのです。
音名は「絶対音高の名前」であると言いつつも、その決め方は結局相対的なものなのです。
(ちなみに現代では「中央ハのすぐ上の一点イ(英音名:A)の音が440Hz」ということになっていますが、実際に使われているのは442Hzくらいであるようです)
まとめると…
階名:音階組織内における音の相対的位置の名前
音名:一つの音の絶対音高を定めた上で、音階の音程関係に従って配置した音の個々の音高の名前
…あたりが厳密な説明になるのではないかと思います。
教育が 階名→音名 という順で行われるのが推奨される理由は、「音階感覚を形成する」→「音階の基準音を定める」という順で取り組めるからでしょう。
これができるようになってしまえば、調号に♯が6つ付こうが♭が7つ付こうが、(臨時記号だらけで音階が不明瞭になる曲でもない限りは)バリバリ音が取れるようになるわけです。
階名、つまり音階組織は、どんな音の高さにおいても保たれます。しかし、音名は一つの基準を定めてしまっていますから、それら音名がゴッソリと上下するわけにはいきません。
階名が上下することによって、音名とはその音程関係に齟齬を生じます。この時に何が起こるかというと、該当する音名がそれぞれ個々に♯や♭で上下することによって、階名に合わせようとするのです。
下の図をご覧ください。
ハ長調C majorにおいて、階名ドレミファソラティドの上に英音名CDEFGABCが載っています。音名における音程関係が階名と一致しているので、♯や♭は付きません。よって、ハ長調C majorの調号は♯も♭も付かないものとなっています。
では例えば、ホ長調E majorを見てみましょう。階名のドが主音に当たりますら、ここに対応する音名はEです。そこから順番に音名を並べていきましょう。
ここで齟齬が生じます。EFGABCDEでは、ドレミファソラティドの音程関係とは食い違ってしまいます。ド-レ は全音なのに E-F は半音だったり、ティ-ド は半音なのに D-E は全音だったり、といった具合です。
では、ドレミファソラティドに合うように音名に♯や♭を書き込んでみましょう。
♯が4つ付きました。これこそがホ長調E majorの調号であるわけです。
このように、音階組織について学び、感覚としても習得しておくことにより、音名や調号といった事柄についてもスムーズに対応することができ、この延長で五度圏にも辿り着けるわけです。
階名も音名も、一般の楽典の教科書ではあまりにも簡単に流されてしまっていることでしょう。音名について「音の名前だよ。覚えてね」と言って終わりという例はいくらでもあります。音楽の知識において初歩の初歩と認識されているでしょうが、これが一体何なのかを丁寧に考えて体感すると、後の理解度も深まるというものです。
今回の記事にはスペシャルサンクスがいらっしゃいます。
音楽教室【ことり音楽室】様より、こんな教材を送っていただきました!
階名の階段の上に音名を書き、音程関係を確認しながら調号を付けるというものです。クリアファイルになっていて、消せるペンで書き込んで使います。裏面には短音階もあります。
今回、まさにこの図を拝借致しました。階名だけならば僕は縦にズラッと書いてしまうのですが、階段状に書くと階名と音名を両方書き込んで見比べる学習活動ができますね。
ありがとうございました。
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