今ではすっかりTV自体を観なくなってしまいましたが、中学生~高校生の頃はNHKの大河ドラマをよく観ていました。特に僕は日本史に詳しかったわけではないのですが、主に父と末弟が興味をもって観ていたのです。僕の興味はやはりそのドラマに付いている音楽の方に向かいました。後になってから歴代のNHK大河のOPテーマ集アルバムを買って聴いていたほどです。
その中でも特に興味深く、しかも僕の音楽観に影響を与えることになったのが、2007年の『風林火山』でした。音楽を担当したのは千住明さんです。
まさに『風林火山』が放送されていた年のいつだったかに、NHKのインタビュー番組(番組名は覚えていない。休日昼のものだったと思います)に千住明さんが登場したことがありました。生い立ちなども番組から紹介されていましたが、『風林火山』のOPテーマの案が2つあり、採用されなかったもう片方のものも聴くことができたりと非常に面白かったことを覚えています。
番組内で千住明さんがOPテーマの跳躍音程について話していたことが大きく記憶に残っているのです(とか言って記憶違いだったらどうしよう…)が、『風林火山』のOPテーマは以下のようなメロディをもっています。
楽譜を見ただけでも一目瞭然で、歌ってみてやはりと実感することですが、付点のリズムで7度や9度といった大きな跳躍音程が何度も出現します。歌うのは非常に大変で、しかも音程も取りづらいものです。階名で「ミ↗️レ」や「ソ↗️ファ」などというメロディは普段でも余程のことが無い限りは書かれないでしょう。つまり、この音楽には余程のことがあるということです。
厳密にどのような言葉で言及していたかは記憶が曖昧なのですけれども、その幅広い音程を付点のリズムで跳ぶことによって、エネルギーをもって駆けていくような情景が描ける…みたいなことを言っていたはずです。
その話を聞いてから、当時中学3年生であった僕は「広い音程を跳ぶメロディは大きなエネルギーを持つ」という意識をもつようになったのでした。なるほど、今やシェーンベルクなんかを弾いているのも、その広い音程を跳ぶエネルギーを味わうことに楽しみを見出だしているからという可能性がありますね。
ピアノという楽器は、1オクターヴ程度の音程ごとき一瞬で難無く跳躍できてしまいます。それは一見すると便利であるように見えますが、実際には幅広い音程の跳躍がもっているエネルギーを忘れて意識できなくなってしまうという問題が起きる要因でもあります。たとえ手中に収まっていたとしても、広い跳躍音程には相応の力が働くことに留意していてもよいかもしれません。
…というか、千住明さんはそこまで考えて音楽を作っていたのか!というのも当時の僕にとっては驚くことでしたね。僕が音楽の分析に興味をもった原点となる体験の一つとさえ言えるでしょう。
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