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執筆者の写真Satoshi Enomoto

【楽典】数字譜の読み方


 SNSのX(旧Twitter)を眺めていたところ、昔の楽譜の解読を求めるニュース記事が目に留まりました。



 《横須賀音頭》ですって?


 この夏に4年ぶりに開催された僕の地元・神奈川県横須賀市の矢之津の盆踊りでは《よこすか音頭》と《よこすか開国おどり》が踊られたものですが、上に載せた楽譜の指す"横須賀"は現在の愛知県知多郡にかつて存在した横須賀町(現・東海市)のことであるそうです。


 「須賀」は砂州を意味する言葉なので、横に広がる砂州地形の名前が「横須賀」となり、異なる地域において名前が重複することは不思議ではありません。神奈川県横須賀市と区別するため、東海市の横須賀町地域は「尾張横須賀」と名乗っているようです。



 

 さて、この数字譜の解読方法はさほど難しいものではありません。それどころか戦前にはほぼ一般的に使われていたものではないでしょうか。僕の出身高校である横浜平沼高校は1900年創立の古い学校ですが、校歌の楽譜は五線譜だけでなく数字譜でも残されています。五線譜と数字譜を対応させることで読み方を考えるということを既に経験しています。


 まあそうでなくとも、楽典の学習の中で数字譜を読めるように扱えばよいだけのことです。菊池有恒『楽典 音楽家を志す人のための』(音楽之友社)をお持ちの方は「記譜法の歴史」の部分をご覧ください。きちんと取り上げられております。


 数字譜は、ルソーのアイデアを始まりとして、複数の教育者の手を経てフランスの音楽理論家シュヴェ(Émile-Joseph-Maurice Chevé, 1804-1864)が考案した記譜法です。僕は「シュヴェ法」という名前で習いましたが、関わった音楽理論家の名前を並べて"Galin-Paris-Chevé system"と呼ぶようですね。


 19世紀ということで、フランスではもう既にドレミのシラブルは音名として定着してしまっていたでしょうか? トニック・ソルファ譜で書いてしまえばむしろそちらの方がわかりやすかったはずではないか、とは思うところです。


 数字譜では、階名のド・レ・ミ・ファ・ソ・ラ・ティのシラブルがそれぞれ1~7の数字に、休符が0という数字に対応しています。楽譜には音名で調が表記され、例えば「ハ調」などとあれば則ち「1=ハ」ということになるわけです。これがもし「ニ調」と書かれていたら「1=ニ」、「ホ調」と書かれていたら「1=ホ」になります。


 リズムも五線譜に準じるような図形によって指示されます。4分音符の場合は何も書かれず、8分音符は数字の下に線が一本、16分音符は数字の下に線が2本…となります。音符の連桁の本数と同じだと思ってください。4分音符より長い場合は伸ばし棒「ー」を書き入れます。


 7と1の間を境としてオクターヴが切り替わる表記もできます。数字の上に点を打てばオクターヴ上、数字の下に点を打てばオクターヴ下…ということです。


 このルールに従えば、冒頭に挙げました《横須賀音頭》も解読できるというものです。ハ調なので1=ハと置きまして、数字とリズムに沿って五線譜に変換してみましょう。



 こんな感じになるでしょうか…?


 この《横須賀音頭》のメロディが普段あまり見ないような動きをしているので、「読み間違えてないよな…?」と自分を疑いつつ書いております。また元の楽譜にもおそらく誤植があるだろうと仮定して想像で勝手に復元した箇所もありますのでご容赦ください。


 あと、2段目からは調がハ調ではなくなっていますが、このあたりは実際の音楽の柔軟さという言葉で片付けたいと思います。


 …とまあ、読み方がわかったところで別の問題も出してみましょうか。例えば僕が今パッと手書きしたこんなメロディも読めるのではないでしょうか。


 数字譜の問題点と言えば、短調の場合は主音が「6」になるということでしょうか。6が終止ということには、少なくとも僕は抵抗を感じます。やはり数字を口にする時には普段は音度を指していることが多いからでしょう。音名にドレミのシラブルを用いてしまったための代用とは言え、今度は玉突きで音度名が失われそうになるわけですから、初めからドレミを階名のままにしておくのが結局楽なのではないかとも考えるところです。

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