これまでにも、新型コロナの感染拡大の影響を受けて、公演や本番が中止や延期になってしまうようなことは時々ありました。それは出演者が感染してしまって本番までに治らないとか、または後遺症が治らないとか、あるいは本番までの稽古計画が大幅に狂ってしまったとか、様々な原因がありました。コロナ禍当初の「未知のウイルスが入ってきた」という警戒のために緊急事態宣言などが発令されて会場が閉じてしまったなどということは、今ではほぼありません。
先月あたりから、本当に出演者本人が感染・発症してしまったことによる公演の辞退や公演自体の延期・中止が増えている感覚があります。第6波でさえここまでの規模ではありませんでした。無症状陽性を引き合いに出す方もいらっしゃるとは思いますが、僕の周りは殆ど発症した後に検査をして陽性判定を受けています。無症状の人が存在するにしても、発症した人の数が今までで最も多いのではないかと思うくらいです。
ところで、この感染拡大状況において公演を催すことについて否定的な感情を持っていらっしゃる方々がそれなりに存在していると推察します。
確かにそれは理解できなくもありません。音の漏れない閉じた空間に人間を集めるわけですから、そこで感染が広がるのではないかというイメージを持たれることは、決して不思議なことではないでしょう。公演を決行するからには、運営者や出演者たるこちらも厳重に感染防止策を講じているわけですが、そのあたりまで込みでわかっている人ばかりでもないと思います。
舞台と客席の間にパーティションを設置してでも、客席の定員を減らしてでも、検温と手指消毒とマスク着用を呼び掛けてでも、感染拡大を起こしてたまるものかという意識でやっているくらいなのですけれども。むしろそのルールにさえ従わない人は公演には来ないでほしいと思うくらいです(たぶん会場が真っ先に追い返します)。
そこまでしてでも公演やりたいという理由はいくつかあります。音楽や舞台といった文化活動を展開しておいて、常時人々の興味関心を喚起しておくこと、その公演を行ったという実績だけでも残しておくことなどが挙げられます。コロナ禍最初に打ち出された補助金でさえ、過去の有料公演実績が無い人たち(無料公演がデフォルトのアマチュア楽団やアマチュア合唱団の指揮者、学校を出たばかりの新米演奏家など)は、対象から外されたのです。活動を継続している証拠は大事なのです。
上記のような理由もありつつですが、最大とも言ってよいのは、公演を止めたところで容赦無く経費は出ていくということです。このあたりは、公演を企画する側に立ったことのある人でなければ体験したことはあまり無いかもしれません。
公演はレンジでチンするようにすぐに出せるものではありません。公演を計画して会場を取って、告知と宣伝を継続的に行い、スタジオを借りて稽古をこなし…などとやっていると、どんなに小規模な公演でもそれなりに会場費、宣伝広告費、交通費、スタジオ代、さらには他人に出演を頼むならギャラ…と、本番を迎える手前までにも様々な出費があるわけです。それを本番の客入りによってプラマイゼロにし、さらには儲けも出していくのです。
これらの計画は公に告知が出るずっと前から動き始めているものです。それを途中で中止するということは、そこまでにかかった費用を回収することはできないということを意味します。会場代だって当日使わなければ払わなくてよいなどということは無く、ガッツリとキャンセル料を持って行かれることの方が多いです。それは会場が暴利を貪っているのではなく、会場をキープしているのだから当然のことです。
少なくとも半年前には、公演の計画は動き始めているものです。3ヶ月前にもなって「自粛しようとは考えないのか?」などとクレームを入れる方もいらっしゃるようですが、そのような人がそこまでの3ヶ月分の出費を負担してくれるわけではありませんから、たとえ赤字になろうとも、できる限り赤字を小さくするためには公演を開催するという判断になるのであります。月末に仕方無く仕事を休んだら1ヶ月分の給与がゴッソリ消えるようなものだと思っていただければ、と思います。
こちらとしてはこれが生活であり生計の種であるわけでして、何ら補填も見込めないこの状況下において「自粛せよ!」というクレームは止めていただきたいのであります。消毒も換気もマスク着用も、感染防止のための部分は譲歩してでも公演の開催はできるだけ守りたいのであります。
というかそもそも、こちらにクレームを寄越してくるくらいならば、屋内や電車内でノーマスクで大声で喋ったり、ハンカチなどで口も押さえずに咳やくしゃみをかましてきたり、トイレの後に手を洗わなかったりするような人々の方を注意した方がよろしいかと思います。街中では感染防止自体が緩んでいるのですから。
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