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執筆者の写真Satoshi Enomoto

【楽譜販売】ジョルダーニ《Caro mio ben》1785年の出版譜に基づくピアノ伴奏編曲版


 声楽を学んだことがある人のみならず、高校で音楽を選択した人さえも歌ったことがあるであろう《Caro mio ben》の知名度は言わずもがなでしょう。



 曲自体は広く知られていますが、それに付随する情報や曲の内容には多くの揺れがあります。そもそも広く知られている《Caro mio ben》は音楽学者パリゾッティの手による編曲版であり、楽譜も付随情報もその編集時にまとめられたものが元になって多くの人に届けられています。


 中でも最も混乱を来したのはその作曲者についてでしょう。確かに作曲者の苗字はジョルダーニでした。しかし、近い時代に血縁関係の無い2人のジョルダーニが存在したために混同が起きたのです。長らく《Caro mio ben》 の作曲者はナポリで活動したオペラ作曲家ジュゼッペ・ジョルダーニの作品であると考えられてきました。パリゾッティがそのように捉えたことが発端であったわけですが、日本で編集されたイタリア古典歌曲集はパリゾッティを下敷きにしたため、同様に作曲者をジュゼッペとしてしまったのでした。


 ものによっては「トンマーゾ・ジョルダーニという作曲家もいるがそちらではない」などとさえ書かれることがあったのですが、近年になって、作曲者はむしろトンマーゾの方であったとする考えが主流になってきているようです。ではパリゾッティが責められるべきなのかと言うと、これに関しては仕方の無いことだったとさえ言ってよいかもしれません。なにせ1785年の出版譜の表紙には「ジョルダーニ氏による作曲」とファーストネーム無しで書かれているのですから。


 パリゾッティの手による編集で混乱した情報は他にもあるのですが、自作をちゃっかり忍び込ませたこと以外はそこまで責められるものではなく、むしろかの時代によくぞここまで編曲してくれたと考えてもよいくらいではないかと思っています。たとえ歌に改変が多数入っていて、ピアノ伴奏があからさまに19世紀の書法であるとしても、です。



 《Caro mio ben》に話を戻しますと、この曲の歌パートに関しては全く皆無ではないにしても殆どパリゾッティは手を加えていないと考えてよいでしょう。オリジナルの弦楽伴奏によるものがF-durだったのに対してパリゾッティがEs-durに調を下げたのは、教材として使用できるようにするという事情に起因するのではないかと思います。現代の高校の教科書などではさらにD-durまで下げられていますね。


 一方で、伴奏の尺はある程度カットされています。実際に演奏してみると実感できますが、確かに歌が出てくるまでに「ちょっと長いな…」と感じる人は出ると思います。パリゾッティ編の方が確かにすっきりしていますが、しかし元は元で一種の豊かさを感じるものとなっています。退屈しないように演奏できれば、後者の方が聴き映えするとさえ言えるでしょう。


 僕はこちらの充実した伴奏を用いたいという衝動に駆られました。確かに歌の視点からすると伴奏が喧しいと思われるかもしれませんが、パリゾッティ編よりも歌とピアノが対等に音楽を作り上げられると感じたのです。


 そのような興味本位で作ったものが、こちらの1785年の出版譜に基づく《Caro mio ben》ピアノ伴奏編曲版です。似たような楽譜も既出ではありますが、僕が書いたものの方が演奏効果は高いであろうという自信はあります。






 あまりそうは聴こえないかもしれませんが、恐らく《Caro mio ben》は歌い手にとっては地味に嫌なポジションにいる曲ではないかと想像します。他の曲と比べてそこまで演奏効果が高いわけでもない、特に会場が盛り上がりはしない、しかし地味なところで技術的に簡単というわけでもない。この編曲で、少しだけ華々しく、コンサートで使いやすい曲として見えてくれたらよいと思います。


 当初は500円で販売したのですが、後で思い直して中声用(in E♭)と低声用(in D♭)の移調譜も作成・同梱して600円としました。これで高声ではない人でも歌えますね。ご購入いただけたら幸いです。

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